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「振動数って何?」と思ったあなたへ。機械式時計の世界では、”振動数”という言葉が頻繁に登場しますが、その意味をしっかり理解している方は意外と少ないかもしれません。機械式時計の「振動数」は、その滑らかさと精度の源です。本記事では、時計の鼓動を司る「振動数」の基本について、初心者にもわかりやすく丁寧に解説します。秒針の動きがなぜ滑らかになるのか、精度や音にどう関係するのか。テンプとヒゲゼンマイが織りなす“鼓動”の正体を解き明かし、HzやVPHといった専門用語も丁寧に解説します。読めば時計の見方が変わるかもしれません。
目次
1. 振動数とは何か?時計の“心臓”を支える概念
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1-1. テンプとヒゲゼンマイ:機械式時計の調速装置
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1-2. 振動数=Hz(ヘルツ)とVPH(振動/時)の関係
2. 主な振動数の種類と実際の例
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2-1. 2.5Hz〜5Hz(18,000〜36,000振動/時)の標準範囲
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2-2. ロービート vs ハイビートの違い(基礎解説)
3. 振動数が時計に与える影響
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3-1. 精度:高い振動数ほど安定した時間計測が可能
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3-2. 耐久性とパワーリザーブの関係
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3-3. 見た目と感覚:秒針の動きや“チクタク”音にも違いが
4. まとめ
1. 振動数とは何か?時計の“心臓”を支える概念
1-1. テンプとヒゲゼンマイ:機械式時計の調速装置
機械式時計の精度を司る中枢部、それが「テンプ」と「ヒゲゼンマイ」です。この2つは機械式ムーブメントにおける“心臓”と“呼吸器”にたとえられ、ゼンマイの力を規則正しく細かく分配する役割を担っています。テンプとは、振り子のように左右に往復する金属製の輪で、その動きが「振動」と呼ばれます。一方、ヒゲゼンマイはそのテンプに巻き付くように設置され、テンプが一定のリズムで動き続けるよう復元力を与えます。この“振動”こそが時計の精度を生み出す源であり、一定の周期で繰り返されることで、秒針を正確に進める仕組みとなっています。
1-2. 振動数=Hz(ヘルツ)とVPH(振動/時)の関係
機械式時計の振動数は、主に「Hz(ヘルツ)」または「VPH(vibrations per hour:振動/時)」で表記されます。1Hzは1秒間に1回の振動を意味し、例えば4Hzの時計は1秒間に4回、1時間では14,400回の振動をすることになります。これを時計業界では28,800VPH(=4Hz)として表記するのが一般的です。この2つの単位は相互に換算可能で、1Hz=3,600VPHという関係があります。振動数が高ければ1秒間の分割が細かくなり、秒針の動きが滑らかになりますが、今回の記事ではその“仕組み”自体に焦点を当て、どちらが優れているかの評価はあえて行いません。
2. 主な振動数の種類と実際の例
2-1. 2.5Hz〜5Hz(18,000〜36,000振動/時)の標準範囲
機械式時計の振動数には一定の“標準レンジ”が存在します。多くの一般的な機械式時計では、2.5Hz(18,000VPH)から5Hz(36,000VPH)程度が採用されています。2.5Hzはクラシックなロービートの代表であり、ヴィンテージウォッチなどに多く見られる振動数です。現代の量産型時計では、3Hz(21,600VPH)や4Hz(28,800VPH)がスタンダードとなっており、ロレックスやセイコー、ETAムーブメントでもよく使用されています。さらに精度を追求した一部の高性能モデルでは、5Hz(36,000VPH)という高振動も採用されています。
2-2. ロービート vs ハイビートの違い(解説のみ)
ロービート(低振動)とハイビート(高振動)の違いは、単に振動数の高低にとどまりません。ロービートでは1秒間に少ない回数しかテンプが振動しないため、クラシックな“チクタク”音が強く感じられ、部品の摩耗も少なくなります。一方ハイビートは振動回数が多いため、より正確な時間の刻みが可能となり、秒針の動きが滑らかになるのが特徴です。本記事ではあくまで振動数の“違い”を紹介するにとどめ、それが「良い・悪い」という議論は次回の記事で掘り下げます。




